井上尚弥選手のバンタム級4団体統一戦を徹底解説!!
「井上尚弥選手vsポール・バトラー選手」の試合を見たんですけど…
今回はこの試合の見どころ、感想、両選手の強いと思ったテクニックを解説していこうかなと思います。
この記事を読むことで
あの試合を見ていない方や、もう一回見ようと考えている方は百倍楽しく見ることができると思うので
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
↓↓ 解説動画もYouTubeに投稿したので、よろしければこちらも併せてご覧ください!
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井上尚弥選手の強さ
この試合が行われた時点での井上尚弥選手の戦績は、23戦23勝無敗、21KO。
WBA、WBC、IBFの3団体のバンタム級(53.52kg以下)のチャンピオンベルトを所持。
対するポール・バトラー選手の戦績は、36戦34勝2敗、15KO。
WBOの同階級のチャンピオンベルトを所持。
試合の結果を最初にお伝えすると、
井上選手が11ラウンド1分9秒でKO勝ちを収めて、見事に4団体の統一王者となりました。
4団体を統一したのは史上9人目で、アジア人では初の快挙となります!!
井上選手が今まで行ってきた中では長引く試合となりましたが、
井上選手のオフェンス&ディフェンスのテクニック、パワー、手数、それに加えて(?)顔の良さも圧倒的という内容でした。
なお試合後、井上選手はスーパーバンタム級(55.34kg以下)へと階級を上げたので、各団体の王座は空席(2023年1月現在)となっております。
強いジャブで反撃を許さない
今回の試合は井上選手の強いジャブが目立ちました。
右足の踏み出しからパワーを左手に乗せていて、かつ下から少し突き上げながら相手に圧をかけるような鋭いジャブで、
相手の反撃を許さないで試合を制するボクサーにとっては理想的なジャブと言えます。
バトラー選手は早々に指し合いの勝負は諦めました。
最強の左フック
井上選手は左フックが強いです(他のパンチも別格の強さを持っているのですが)。
今まで多くの強者を沈めてきましたけど、今回の試合では単純に強い左フックを打つだけでなく、
この左フックがバトラー選手の正面に入るようなポジション取りも考えながら試合を運んでいる様子が見れました。
また、反撃をもらいにくい打ち方になりますね。
バトラー選手の強さ
テクニックも手数も井上選手に負けていたものの終盤まで諦めずに粘り強くガードを固めていて、
ガードの硬さは超一流だと思いました!!
とにかくバトラー選手のガードの隙間がかなり狭い!
それでも全てのパンチを完璧に防げていたわけではないのですけど、
なによりディフェンス技術で良かった点は、井上選手の右ストレート(あるいはオーバーハンド)が見えていたところにあります。
見えていたからこそ、それをしっかりとガードをして受け止めることができていました。
また正面のガードの隙間も狭いのでジャブも突きづらい。
同時に顎も引いていたのでダメージが入りづらく、まさに鉄壁のガードとなっていました。
井上選手の必殺の左フックも入っていたように見えましたが、意外と効いてはいない感じでしたね。
しっかり受け止めていたり、スウェーバック気味に攻撃をいなすなど、威力をころすような受け方をしていました。
しかし井上選手と比べてしまうと、そのバトラー選手ですら全てが雑に見えてしまう。
そのくらいに同じ階級であれだけの差の開きよう、力量差はあり得なかったということですね。
要するに、バトラー選手にとって相手が悪かった。
井上選手が別格すぎて、プロのチャンピオンですら負けるのは仕方がないと言えます。
試合の見どころを解説
井上尚弥選手とバトラー選手の長所を解説しましたので、
ここからは試合の流れと、どういう駆け引きがあったかを解説していこうと思います。
序盤
ように見えました。
をしていたように感じます。
バトラー選手も1ラウンドはフットワークもありましたし、そこまでガードが固くなかったように思えます。
ただ2ラウンド目からは完全に亀のようにこもってしまいました。
見ている側としては、1ラウンドを終えて早々に井上選手の反応速度、パワー、スピードにびびったのかなぁという感じを受けました。
しかしバトラー選手は井上選手の右ストレートも左フックも通しづらいガードをしていたので、立ち上がりは井上選手も決め手がないような印象でした。
ストレートを正面に打たない井上尚弥選手
意外にも、井上選手はバトラー選手の正面にストレートを打っていませんでした。
どちらかと言うと、
ぶん投げるようなオーバーハンド気味のストレートをバトラー選手の左手のガードに引っかけて、返す形でフックで正面を狙ったり、ボディーを狙ったりしていました。
そのオーバーハンド気味のストレートに対しても、バトラー選手は通常のブロッキングよりも少し上にシフトしたりして対応するというガードの徹底ぶり。
加えて「井上尚弥選手の左ボディーをまともに受けたら危ない!」と全人類が気づいているので、バトラー選手もこれには対策済みでした。
もしかしたら危ない脇腹の上部へは一発も打たせていないのではないかと。きっとバトラー選手はこの練習を百万回はしていたと思います。
ちなみに脇腹の下部には当たっていたのですが、下部なら耐えられると考えていたのでしょう。
負けない立ち回りを優先したバトラー選手
序盤では勝てる見込みはないとわかったバトラー選手は、相手の隙を伺うような、早急に負けないための立ち振る舞いをしていました。
これはクレバーで良い判断だと思いました。
変に手を出してしまっていたら、井上選手の化け物のようなカウンターで合わせられると肌で感じていたはずなので、対井上選手としては堅実な立ち回りでしょう。
バトラー選手の凄いと思った点は、ブロッキングが上手いだけではなく、ブロッキングをしたままで終わらないところにあります。
彼はブロッキングをしながらすぐにバックステップやサイドステップに移るので、井上選手としても、そこが早期に勝負を決め切れないポイントだったと言えます。
逆にバトラー選手が足を止めたままだったならば、あそこまで長引く試合にはならなかったでしょう。
ブロッキングをしたまま足を動かすのは難しいので、実際には見たままより難しいテクニックだと思います。
中盤
井上尚弥選手も攻めあぐねていた!?
そんな状況でも派手な攻めを魅せてくれました。
勢いの衰えない井上尚弥選手
バトラー選手はほとんど手が出ず、井上選手がオフェンス+手数で圧倒するという展開が続きました。
もしかしたらバトラー選手は、井上選手が打ち疲れる可能性に勝負をかけていたかもしれないです。
相手の攻撃を引き出して、守って、引きつけて引きつけて、相手が消耗したところを狙って逆転を図る。
リスクはありますが有効な戦法ですね。
しかしあれだけ強打を繰り返しているのに、井上選手は全然疲れない。むしろギアが上がるという鬼畜ぶり(?)を見せます!
井上選手のスタミナは尽きない。パワーも桁違いだし、それに加えてテクニックも”モンスター級”だから、バトラー選手にとっては絶望的な状況だったと思います。
バトラー選手は左手しか出せていませんでした。それも「もし当たったらラッキー」みたいな類の、相手を倒すためのパンチには見えませんでした。
そして井上選手にはそんなパンチは当たらないわけです。
井上選手は全て見切って回避、スウェーバック、ダッキング、ブロッキング、簡単な所作で防いでしまいます!
KO勝ちにこだわるボクサーの鏡
中盤までの流れを見ると、井上選手は間違いなくポイントで押し切れました。
つまり井上選手が残りのラウンドで手を抜いても、判定で勝ちを収めるのが確実だったというわけです。
でもそこはさすがプロのチャンピオン。ポイント勝ちできるけど、ポイントで勝とうとしない姿勢が井上選手から伝わってきました。
それから井上選手はバトラー選手の隙を作るためにノーガード戦法をしかけたり、フォームを変えたりしていました。
しかしバトラー選手は全然誘いに乗らないのですね!
あのあからさまな誘いに乗らないのも、それはそれですごい。誘いに乗ったらやられる!と勘が冴えていました。
感情的にならずあくまで冷静に立ち回る…彼もさすがにチャンピオンだと言えます。
結果としては、井上選手がバトラー選手でサンドバッグ打ちをしているような展開になってしまいました。
井上選手の美しくキレイなフォームを見たいというファンにはたまらない状況ではありましたけど、
格闘技の魅力である攻防の駆け引きが生まれなかったので、井上選手本人も含め、熱い試合を望む観客にとっては些かつまらない展開が続きました。
そんなこともあり、井上選手のエンターテイナーとしての側面も伺えました。
井上選手はコンビネーションを変えていて、一番得意なワンツーとかストレートからフックといった必殺技だけではなく、
ダブルストレートとかボディーからフックとか、ボディーからストレートとか、ジャブを3発ボディーに入れたりとか、普段あまり見ないコンビネーションも使っていました。
そんな複雑なコンビネーションでも打ち終わりのフォームは崩れないし、そのコンビネーションを打った後でも相手の攻撃を避けられるような余裕を持っています。
「足が機械なの?」と思ってしまうほど、色んな攻撃をしても軸がブレないのはボクサーとして完成している証でしょう。
そういうある意味“舐めプレイ”をされても手を出せないバトラー選手と、どこかで決めたかった井上選手という構図が続きました。
決定打を入れる隙を生み出すために、井上選手はどうしても相手のパンチを引き出したい!
基本のジャブで突いて突いて相手の攻撃を引き出して、そこでカウンターを入れたいという目論見があったと思うのですが、
ジャブを突いても突いてもバトラー選手から返してこない。普通であればジャブを打てば何かしらのレスポンスがあるものですけど…
井上尚弥選手はディフェンスも神レベル
ただ思わぬところでバトラー選手のパンチが飛んでくるシーンもありました。
タイミングをずらして測らせないパンチ。ブロッキング姿勢から打ち始めるので予備動作がなく相手にとって読みづらいパンチで、それはハイガード・スタイルの特徴であり有利なところかと思えました。
バトラー選手の右のパンチが少しばかり井上選手のガードの奥に入り込んだシーンがあり、バトラー選手の腕はリーチもあるので、見ている側としてはそこだけが心配でした。
でもそれ以降も井上選手は全然危なげなかった。なぜなら、ほぼ全てを避けていたから。
あえてギリギリに、パンチをすんでで避けていた井上選手。
井上選手を”モンスター”たらしめる理由の一つに、カウンター性能の鋭さが挙げられます。
相手のパンチが当たるか当たらないかの位置まで引きつけて、すんでで避けて強いパンチを当てる!
あのレベルの攻撃を普通に避けるだけでも難しいのに、井上選手はオフェンスのために紙一重で避ける。
それを出来てしまうのが、井上選手の化け物なところでしょう。
攻めている井上選手がバトラー選手を早歩きのようなステップで追いかけ回し、強いオフェンスを仕掛けるという流れが出来上がりました。
足で相手を追いかけていたら、相手からの急な反撃は身のこなしや足で避けられないことが多いので、普通はブロッキングで受け止めるだけになってしまうことが多いわけですが、井上選手はほぼかわす。
格闘技を少しでもやっている人ならわかると思いますが、普通ならできない技術になります。
オフェンスだけでも神レベルなのに、それに加えてディフェンスも神レベル!
シューティングゲームでも、当たるか当たらないかの位置まで敵の弾を引きつけて、そこからすんでのタイミングで避けながら弾を打ち返すチートみたいなキャラは中々いないものです。
変幻自在なファイトスタイル
5ラウンド目の終盤、井上選手の凄いと思ったテクニックがありました。
バトラー選手がロープにもたれかかるシーンがあったのですけど…
井上選手はすかさず詰め寄って、隙間がほとんど空いていないポジションからキレのある強い左アッパーを2発打って、そこから右にシフトして右のショートアッパーを打ち、今度は後ろにシフトして腕を伸ばしきっての左ボディーを打つ!
それだけでも異次元のコンビネーションなのですけど(その後には右のフックを被せたりもするんですけど)、あんなことはカメラの前でやっちゃダメですね(笑)。
別世界のチートのような回避能力といい、それこそ超能力か魔術を見せられているような心境でした。
あとは問題の6ラウンド目ですね。
井上選手はサウスポーになったり、須藤元気(旧K-1のトリックスター)ばりの半身になったり、絵に描いたような静止状態になって相手を誘ったり。
そうやって色んなことを仕掛けるんですけど、面白いことにバトラー選手は何もしないんです、と言うより何もできないのでしょう。
前半から井上選手の圧力、反応速度をリングの上で目の当たりにしてきたということで、「ちょっとでも誘いに乗って手を出したらやられる!」とでも言うような恐怖心。
ボクシングがテクニックだけで完結しない部分。それはメンタルが関わってくるということなんです。
一度でも「この相手には勝てない!」と思ってしまったら勝てない試合になる。
ボクシングは機械同士の戦いではありません。
生身の人間だから発生するメンタルの駆け引きが勝敗を分ける。それも格闘技の面白いところですね。
6ラウンドの終わり、井上選手の陣営が「判断は任せるけど、フェイントはリスクがあるからね」とアクシデントを心配している様子が伺えました。
格下とのマススパーリングでしかやらないようなレベルの挑発の数々。それでやられたら元も子もないですから、見ている側としては「まあ、普通は心配しちゃうよね」と思いました(笑)。
それでも井上選手は避けられると思っているところが他の選手と違うところです。
7ラウンド目なんかは、井上選手がテンプルを差し出して「バトラー選手、ここに右ストレートをどうぞ」と言うような様子も見られました。
それでもバトラー選手は、左手は出すけど右手は出さなかった。「右手を出したら終わり!」と頑なに思っていたのでしょう。
もしバトラー選手が勝負をかけて右手を出していたら、もっと早期に決着がついていたと思います。
そのくらい井上選手のカウンターが怖いということです。
終盤
“隙”を引き出す為に構えを変えていました。
型破りなモンスター
試合の終盤でも井上選手は色々と仕掛けていきました。
持ちネタが多いだけでも凄いのですけど、あの舞台で色々試せるというのが凄い!
あのレベルのボクサーになると、自分の型を崩さないのが定石です。
一流の選手にはそれぞれ、何十年とトレーニングをやり続けて体に染み込ませた最強の型があるわけです。
相手に翻弄されず自分の型を貫き通した方が勝つ世界、わずかな隙が勝敗を分ける世界なので、その型を崩したら危ない。
でも井上選手は、その型を崩すんですよ。
テンポを崩したりフォームを崩したり、ちょっとでも崩せば相手のタイミングと噛み合ってカウンターが入るだろうと思ってのことなんですけど、
4つのチャンピオンベルトがかかった試合でそれをできるというのが凄すぎて、井上選手のモンスターたる所以でしょう。
超一流は、型を崩しても超一流のまま。
そしてKO決着へ
バトラー選手も、10ラウンド目まではディフェンスはかなり上手かったです。
リングロープを上手く使ったり、サークリングしたり、ブロッキングをしてすぐにサイドに抜け出せるように、ジャンプするようなステップを踏んだりといった細かいディフェンスのテクニックが光っていました。
でもやはり11ラウンド目になると守り切れず、ボディーストレートからの左フックでテンプルに入れられて、続くワンツーでぐらついてからフック系の猛攻でダウンし、井上選手がKO勝ちとなりました。
結果としてバトラー選手は何も出さずに…と言うか、何も出せずに終わってしまいました。
個人的には、バトラー選手に秘策があるなら見たかったですね。やはり手を出さないと勝ちを得られませんし。
片や、KO負けを逃れたいと思ってあれだけディフェンスを固めた世界チャンピオンを、無慈悲にガードの上からなぎ倒す!
相手に何もさせないで勝つ、井上選手の無慈悲な強さが際立つ試合となりました。
迫力のあるヘビー級とは違って、あの小さな体で“モンスター性”を感じられるというのは中々ないでしょう。
そんな井上選手の試合を11ラウンドまで見られるというのも奇跡ですね。いつも早いラウンドで倒してしまうものですから(笑)。格闘技研究家としては嬉しいところです。
今後ともよろしくお願いします!
最後になりますが、
井上尚弥選手。4団体統一、おめでとうございました!
この記事の筆者
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格闘技ジム経営者、元プロキックボクサー&プロボクサー、柔道整復師。
登録者45000人程のYOUTUBE格闘技チャンネル運営。格闘技についての知識や技術を「楽しく分かりやすく解説」
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